淋菌にも高度多剤耐性菌


予備知識の無いフィリピン人社会での感染は薬も効かなくなるのだ

フィリピン国内のフィリピン人が何人まともに10日分の抗生物質を購入する事が出来るのだろうか?

治らない病気になる前に自分の環境衛生を考える事が大切なのだ。

REPORT

トレンド◎薬剤耐性(AMR)の現実「淋菌にも高度多剤耐性菌」の衝撃淋菌性咽頭炎の見逃しで耐性菌拡散の危険も

 薬剤耐性淋菌がひそかに広がっている。特に日本は、第一選択薬である抗菌薬にも高度な耐性を示す多剤耐性淋菌が相次いで発見され、「淋菌耐性化の先進国」と揶揄される事態に至っている。今、打つべき手はあるのか。

淋菌(Neisseria gonorrhoeae)は、性感染症の1つである淋菌感染症の原因菌だ。尿道や子宮頸部、直腸や咽頭などの内膜をはじめ、眼の前部を覆う膜(結膜と角膜)を侵す。主な症状は男性が尿道炎、女性が子宮頸管炎。尿道炎では、排尿時の痛みが特徴的。女性では症状は軽いが、治療しないと不妊症や子宮外妊娠の原因となる。また、自らの手指を介して菌が目に侵入し、淋菌性結膜炎(膿漏眼)を引き起こすこともあり、重症化すると失明に至る危険な病気だ。定点報告から推定される新規患者数は、年間5万~8万人に上る。

「最も脅威である細菌」の1つに

「抗菌薬が使用できるようになって以来、ずっと簡単に治療できる菌だった淋菌が、治療薬の選択に悩む病原細菌のリストに挙げられるようになるとは奇妙な感じがする」。国立感染症研究所細菌第一部部長の大西真氏はこう受け止める。

治療薬の選択に悩む病原細菌のリストは、米疾病対策センター(CDC)が2013年に発表した報告書「薬剤耐性の脅威」(Antibiotic Resistance Threats in the United States, 2013)に取り上げられた。報告書では「最も脅威である細菌」を3つ挙げているが、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-resistant enterobacteriaceae:CRE)と並んで、薬剤耐性淋菌も名を連ねている。

米CDCはなぜ、薬剤耐性淋菌を脅威の1つとしたのか――。答えは、「最近、淋菌症の第一選択薬であるセフトリアキソンに高度な耐性を示す多剤耐性菌が相次いで発見されている」(大西氏)からだ。

世界で初めて分離されたのは2009年。京都で、性産業従事者(コマーシャルセックスワーカー、CSW)の検体から分離され、大西氏らが報告した。耐性を示す指標には、最小発育阻止濃度(MIC)が用いられる。この値が、ある基準値以上になると耐性(非感受性)となる。セフトリアキソンの場合、「MIC≧0.5mg/L」が非感受性の基準だが、京都で分離された耐性菌は8mg/Lと著しく高かった。加えて、他の抗菌薬にも耐性を示す多剤耐性菌でもあった。

国立感染症研究所細菌第一部部長の大西真氏

翌2010年にはフランスで、2013年にはオーストラリアで相次いで分離された。これらは散発的な発生で済んでいたが、2013年末に名古屋で世界4例目が、続いて2015年初頭には大阪で世界5例目が分離されるに至った。5件の高度多剤耐性淋菌は、セフトリアキソンのMICが0.5mg/Lから8mg/Lを示していた。

今のところ、4例目、5例目とも散発例に終わっている。だが、高度多剤耐性菌の5例中、3例までが日本において分離されたことは要注意だ。「米CDCは、こうした日本の状況を見て、対策強化に打って出たとみるべきだ」(大西氏)。

使える薬がなくなる?

セフトリアキソン高度耐性淋菌が拡散した場合、何が起こり得るのか。

淋菌症の治療薬は、尿道炎や子宮頸管炎に対しては第3世代セファロスポリン注射剤であるセフトリアキソン、セフォジジム、スぺクチノマイシンの3剤のみが推奨薬だ。また、淋菌性咽頭炎の治療には、セフトリアキソンが唯一の推奨薬となる。このことから、セフトリアキソンが事実上の第一選択薬という位置付けだ。

このためセフトリアキソン耐性化によって、尿道炎や子宮頸管炎の治療では第一選択薬を、淋菌性咽頭炎にあってはただ1つの推奨薬を、それぞれ失うことになる。これにより、淋菌症の治療が困難になるのは想像に難くない。

加えて、淋菌性咽頭炎では、公衆衛生上、大きな痛手を被る。淋菌性咽頭炎は一過性で、ほとんどは軽症か無症状であり、数週から数カ月で治癒することが多い。そのため臨床的には気づかれにくく、見逃されてしまいがちだ。それでも、泌尿器科や産婦人科、耳鼻咽喉科など、淋菌性咽頭炎に遭遇する可能性のある医師らが積極的に疑って診断につながれば、セフトリアキソン治療によって症状を改善することは可能だ。治癒に至るだけでなく、淋菌の除菌に成功すれば感染源を断つこともできる。しかし、唯一の推奨薬であるセフトリアキソンの高度耐性菌が拡散してしまうと、こうしたシナリオが根底から崩れてしまう。

日本で高い耐性率

ここまで高度耐性に着目してきたが、セフトリアキソン耐性化の全体像はどうなっているのか。

大西氏によると、まず低感受性(MIC≧0.125mg/L)を示す株の割合は、米国の2011年調査では0.4%だったが、日本の2015年調査では14.2%と二桁も高かった。さらに低い感受性(MIC ≧0.25mg/L)を示す株の割合は、米国の2011年調査では1%未満。これに対して日本の2015年調査では6.0%となっている。日米で調査年次の違いはあるものの、「米国に比べて、日本の耐性化が際立っている」(大西氏)のは間違いないようだ。なぜ日本で耐性化が進んでいるのか、明確な答えはまだない。

一方で、懸念すべき事実も報告されている。分離された5つの耐性菌はいずれも異なる淋菌株だったことが確認されているが、2013年以降の3つの分離株(オーストラリア、名古屋、大阪で見つかった株)では耐性遺伝子が類似しており、何らかの関連性があると見られている。

幸いなことに6例目はまだ発見されておらず、セフトリアキソンに対する高度多剤耐性淋菌の拡散を示す証拠はない。ただし、3例目以降、類似した耐性遺伝子を持つ高度耐性菌の分離が続いていることを考えると油断は禁物だろう。大西氏も「まだ高度多剤耐性淋菌が拡散している状況にはないが、一歩手前まで来ているのは確か」と警戒感を隠さない。

だが、耐性化への危機意識には日米で温度差が見受けられるようだ。大西氏によると、セフトリアキソン高度耐性淋菌が初めて発見されたとき、むしろ欧米での反響の方が大きかったという。セフトリアキソンの用量が日本では1g静注だが、米国では250mg、欧州では500mgと低用量の筋注を使用しているのが背景にある。高度な耐性淋菌に対しては、低用量では効果が望めない。このため、欧米は、第一選択薬の抗菌薬も効かない高度多剤耐性菌が出てきたことを踏まえて、それまでのセフトリアキソン単剤推奨からアジスロマイシンなどとの2剤併用の推奨へと、「大きく舵を切った」(大西氏)。一方の日本では、まだその動きはない。

では今後、日本ではどのような対応が必要となるのか。大西氏は、以下のような見方を示す。「1g静注という高用量のセフトリアキソンを使っている日本では、MICが0.5mg/Lの耐性菌に対しても治療効果は見込めるはずで、直ちに単剤から併用へと切り替える必要はないのではないか」。ただし、MICが徐々に上がってくることは十分予想され、「もしもMICが1mg/Lを超えるようなら、日本でも併用などを考慮しなければならなくなるだろう」。

厄介なのは、欧米が併用薬として採用したアジスロマイシンは、日本では耐性を持つ淋菌が拡散傾向にある点だ。大西氏によると、アジスロマイシン低感受性の割合は10.1%で、耐性の割合は3.2%と進行している。

「長期的視野に立てば、新しい薬の開発は必須だ。並行して、今ある薬の再評価を行い、適切な併用薬の組み合わせを検討する必要もある。また、投与方法の見直しも検討課題だ。性感染症における抗菌薬投与は1日で完了することが前提となっているが、5日間あるいは7日間投与での治療についても検討しなければならない」(大西氏)。

当面は耐性菌サーベイランスを強化するとともに、抗菌薬の適正使用を徹底することが求められる。また、感染源の温床ともなり得る淋菌性咽頭炎への対処も急がれる。CSWらのハイリスク集団はもちろん、医療関係者や国民に対する啓発活動が欠かせないのは言うまでもない。

耳鼻咽喉科受診者の数%に淋菌陽性者、うち3分の1が無症候性
東京女子医科大学東医療センター耳鼻咽喉科准教授の余田敬子氏に聞く

淋菌性咽頭炎にはまだ不明な点が多い。2010年から2015年に全国10施設の医療施設が参加した共同研究の結果では、喉の痛みや違和感を訴えて耳鼻咽喉科を受診した成人で、無料の淋菌・クラミジア検査を希望した人を対象に調査をしたところ検査を受けた人のうち淋菌陽性者は数%であった。そのうち、3分の1は無症候性だった。また、2分の1は一般的な扁桃炎や咽頭炎を呈していた。無料の検査を希望した耳鼻咽喉の受診者という限定的な対象であるが、淋菌陽性者が一部に存在するのは事実だ。
耐性淋菌については危機感を持っている。私も淋菌性咽頭炎で何例か、難治性の症例を経験している。一般論となるが、性活動期にある成人で、扁桃炎や咽頭炎を繰り返す人や、咽頭の症状が急に治りにくくなったと訴える人の中に耐性淋菌の感染例が紛れている可能性はある。この点は、日常診療において頭の片隅に入れておくべきだろう。(談)

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/201607/547600.html

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